こんにちは。
Graging Toolsです。
このブログでは、革製品の魅力や知識についてぜひ知っていただきたいことをお伝えしています。
今回は、革職人の技「割り漉き」についてご紹介したいと思います。
「漉き(すき)」とは、革の裏側を削って薄くする加工のことを指します。
よく、「この品物は革が厚いから高級感がある」なんて言葉を聞きますが、実はそれってちょっと違うのです。
確かに厚い革を使ってふくよかな表情を持つ頑丈な品物はあります。
しかし小物などの場合、パーツによっては薄い方が調和のとれた美しい仕上がりになる場合があるのです。
そして、その薄さ加減を調整するのが、「漉き」であり、職人の技が冴える工程でもあります。
早速、職人技の一つである「割り漉き」についてご説明しましょう。
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さて、まずは「割り漉き」の概念からお伝えしましょう。
革全体をスライスすることを「割り」といいます。
そして薄くすることを「漉き」といいます。
この二つの言葉を合わせて「割り漉き」となります。
ちなみに関西では「漉き割り」と呼ぶそうですよ。
今回は、関東風で「割り漉き」として統一したいと思います。
「割り漉き」にも種類というものがありまして、パーツ全体をスライスすることを「ベタ漉き」。
一部をスライスすることを「漉き」と呼びます。
もちろんこれは扱う品物やパーツによって両方を使い分けていくわけです。
例えば、「漉き機」という工具があります。
手縫いの革工房では唯一の電動機械と言える「漉き機」を使った「割り漉き」があります。
(主にベタ漉きの加工に使われます)
「漉き機」を使うメリットは大きく3つがあります。
1, 革の厚みを希望の厚みにスライスできる。
2, 革の箇所によって厚みに違いがありますが漉くことで厚みを均一にそろえられる。
3, 後の作業にある糊付、縫い、仕上げでの作業効率が良くなる。
「漉き機」を使うと、元の厚みが3.4mm~3.6mmのものを1.5mmに均一に薄くする、なんてことが簡単にできてしまうのです。
これに対して「手漉き」があります。
革包丁で「漉く」作業のことです。
例えば、コバ(裁断した革の断面)を出さないパーツや縫い目とコバの間で終わる裏地などを、先端がゼロになるよう革包丁で「漉く」のです。
手漉きで行う先端をゼロにするメリットには次のようなものがあります。
1, 品物の表情を演出するため。
2, コバの仕上がりや耐久性を求める。
3, 革の重なりを表面に出したくない場合や芯材のアタリを表に出したくない場合に用いる。
「漉き機」にしても「手漉き」にしても、ミリ単位や先端ゼロなど、「割り漉き」はとても繊細な作業が求められるのです。
さて、ここで革製品に関する「コバ」という単語がでてきました。
次にこの「コバ」について少し説明しますね。
そもそも「コバ」と呼ばれるようになった語源ですが、革の断面はざらつきがあり木目のように見えるので、「木端(コバ)」になったのだそうです。
多くの革製品の場合、コバの部分の「コバ磨き」という作業をします。
革の断面を綺麗な状態にするのはもちろんですが、コバの部分をいかに磨くかで、品物のデザインや耐久性に大きな影響を与えるのです。
この「コバ」については、次回のブログでその役割やメンテナンスの方法などをたっぷりとご紹介しますのでお楽しみに。
さて、話を「割り漉き」に戻したいと思います。
革の厚みを調整する「割り漉き」は、革製品のとても重要なポイントと言えます。
例えば小さな財布を作るとして、表の革は全体で何ミリ、縫い目の手前からコバ(裁断した革の断面)までさらに薄く斜めに漉いて、内側の革は何ミリ、そのコバ付近は何ミリ…と細部の一つ一つをミリ単位で漉いていくのです。
非常に鍛練された職人の技術が要求されます。
パーツの強弱を試算する「割り漉き」によってその品物の美観が変貌するといっても過言ではありません。
「ここは0.5ミリ、いや0.4ミリに漉こうか」なんて勘案が、調和のとれた美しい品物へと直結する。
様々な要素が「漉き」加減によってコントロールされているのです。
そして、そのミリ単位の創意工夫は職人の技の賜物と言えるでしょう。
今回は熟練の職人技が光る「割り漉き」というものについてお伝えしました。
「割り漉き」でひと手間かける。
そのおかげで、革のフチを折る、または貼り合わせて縫製した時などに均一な厚みに仕上げることができます。
それが引いては品物の美しさや風合い、使い心地の良さに繋がるのです。
革製品の良し悪しは、単に革の品質や特性によるものだけではありません。
各パーツを成形し、「割り漉き」の技術で整えることがいかに重要かお分かりいただけたでしょうか。
革製品は使い込んでいけばいくほど、味わいや深みが増す品物と言われています。
耐久性や使い勝手の良さと共に、見た目の美しさや趣も同時に育っていく。
その裏にはミリ単位の職人の技があることをどうぞお忘れなく。